先日、新緑が目に鮮やかな季節に、日本有数のりんごの産地である青森県弘前市と岩手県盛岡市を訪れ、りんごの「摘花(てきか)」という作業を体験させていただきました。普段何気なく口にしている美味しいりんご。その背景には、生産者の方々の並々ならぬ手間と愛情が込められていることを、身をもって知る貴重な機会となりました。今回は、その摘花作業について、体験を通じて感じたこと、学んだことをレポートします。
りんごは日本だけでも2000種!

りんごといえば、「ふじ」や「つがる」、「ジョナゴールド」などが有名ですが、実は日本で栽培されているりんごの品種は、なんと約2000種類もあると言われています。それぞれに個性的な味や香り、食感があり、その多様性は驚くばかりです。今回訪れた農園でも、様々な品種のりんごの木が栽培されており、それぞれの花の色や形にも微妙な違いがあることに気づかされました。
なぜ花を摘むの?「摘花」作業の目的とは
りんごの木は、春になると可愛らしいピンクや白の花をたくさん咲かせます。しかし、これらの花を全て実にしてしまうと、一つ一つの実に十分な栄養が行き渡らず、小玉で味の薄いりんごになってしまいます。また、木全体にも大きな負担がかかり、翌年の実りにも影響が出てしまうのです。
そこで行われるのが「摘花」です。良いりんごを育てるために、余分な花を摘み取り、残した花(実)に栄養を集中させるのが主な目的です。これは、いわば「選抜作業」。より美味しく、より大きなりんごを育てるための、欠かすことのできない重要な工程なのです。

摘花のタイミングとやり方
摘花作業は、りんごの花が咲き始めてから行われます。品種やその年の天候によって時期は異なりますが、おおむね春から初夏にかけて、長いものでは2ヶ月程度にわたって続くこともあるそうです。早生種から晩生種まで、それぞれのりんごの開花状況を見極めながら、計画的に作業を進めていく必要があります。
具体的な作業方法ですが、りんごの花は、一つの枝に複数のかたまり(花叢:かそう)となって咲きます。そして、そのかたまりの中心にある「中心花(ちゅうしんか)」が最も生育が良く、大きく立派な実になる可能性が高いと言われています。そのため、基本的にはこの中心花のみを残し、その周りにある「側花(そくか)」は全て丁寧に摘み取っていきます。
実際にやってみると、どうしても全部摘んでしまったら1つも実がならないんじゃない…!?といった不安が出てきます。ただそれは逆に後々の作業効率を落としてしまうんですよね。
ハサミを使ったり、指で丁寧にひねり取ったりするのですが、確実に中心花だけを残し、他の花や若い葉を傷つけないように細心の注意を払います。一般的には「葉50枚につき1つの実」が目安と言われています。葉の数と残す花のバランスを見ながら、将来実となる花を選んでいくのです。
農家さんにお話を伺うと、この摘花の基準や作業の進め方は、農家さんそれぞれで長年の経験や栽培する品種によって、微妙な調整やこだわりがあるそうです。

想像以上の重労働と、担い手不足の現実
黙々と上を向き、小さな花と向き合い続ける摘花作業。実際に体験してみて、その大変さを痛感しました。腕を上げ続ける姿勢は想像以上に体にこたえ、数時間もすると首や肩がパンパンになります。広大なりんご畑一面に咲く無数の花の中から、残すべき一輪を選び出し、他を摘み取っていく作業は、膨大な時間と手間を要します。りんご花粉が舞うので、農家さんでも花粉にやられてしまう方が多いとか。筆者はりんご花粉でしばらくくしゃみが止まりませんでした!
近年は、農業従事者の高齢化や後継者不足が深刻な問題となっており、この長期間にわたる作業の人手確保は大きな課題です。摘花作業が進まずに、適切な期間で終わらずに夏頃まで摘花が終わらない農園もあります。美味しいりんごを未来につないでいくためには、私たち消費者の理解と、何らかの形でのサポートが必要だと強く感じました。
あなたも「りんご守」に!体験のススメ
この大変な摘花作業ですが、近年では私たちのような一般消費者も参加できるボランティアや農業体験ツアーが増えてきています。実際に作業を手伝うことで、農家の方々の苦労や想いに触れ、食への感謝の気持ちが深まります。何より、自分が手伝った木がりっぱな実をつける秋を想像すると、ワクワクしませんか?
広大なりんご畑で、心地よい風を感じながら、黙々と花を摘む作業は、ある意味で瞑想的でもあり、心が洗われるような感覚も味わえます。そして、作業後には、その土地ならではの美味しいものをいただいたり、農家の方々と交流したりする時間もまた、大きな魅力です。
今回の摘花作業体験は、私にとって、りんごという果物への見方を大きく変えるものでした。一つ一つのりんごの裏側には、多くの人々の手間と愛情、そして自然との共生があることを改めて実感しました。
この記事を読んでくださった皆さんも、ぜひ一度、りんごの摘花作業や収穫作業などを体験してみてはいかがでしょうか。スーパーでりんごを見る目が変わり、一口食べるごとの味わいが、より深く、豊かなものになるはず。実がなる過程を知って、通年スーパーに並ぶりんごではなく、蜜入りの旬の味を楽しんでいただきたいです。当たり前に食べている果実の産地に赴くことが地域を支え、日本の美味しい食文化を守っていくことに繋がるのだと信じています。

Community Branding Japanについて
CBJでは、全国の地域経済創発活動に力を入れて進めています。PRやブランディングのご支援にはじまり、実際にはたらくことを見据えた地域体験や研修プログラムづくりだけでなく、プロジェクトメンバー自身がLinkedInをはじめとするオウンドメディアでの発信することによって集客も担っていきます。活動にご興味を持ってくださる個人、企業、地方自治体の皆様、お気軽にお問い合わせください!
Edit by 高崎澄香