北海道の広大な田園風景の中に、静かに佇む安平町。一見すると、どこにでもあるのどかな町かもしれません。しかし、その歴史を紐解き、現在の姿を見つめると、世界を驚かせる産業、困難を乗り越える力、そして未来を切り拓く強い意志が交差する、ダイナミックな物語が浮かび上がってきます。今回は、酪農と鉄道という二つの歴史が融合し、世界的な馬産地へと飛躍、そして未曾有の災害から力強く立ち上がった安平町の、知られざる魅力に迫ります。

二つの町の物語と、世界に誇るサラブレッドの故郷
現在の安平町の多様な個性は、2006年に合併した二つの町、早来町と追分町の歴史に深く根差しています。
「農の町」として発展した早来地区。ここは、日本で初めて本格的なチーズ工場が建てられた「チーズ専門工場発祥の地」として、日本の酪農史にその名を刻みました。豊かな土地と資源を活かした農業が、この地の礎を築いてきました。


一方、追分地区は、夕張や空知の炭田から石炭を運び出すための鉄道網の拠点として栄えた「鉄道の町」です。最盛期には多くの蒸気機関車が行き交い、鉄道関係者で賑わう典型的な工業・物流の町でした。

性質の異なる二つの町が一つになることで、安平町は多様な産業ポートフォリオを持つユニークな町として新たなスタートを切りました。そして、そのポテンシャルを最大限に開花させたのが、世界にその名を轟かせるサラブレッド産業です。ディープインパクト、アーモンドアイ、イクイノックス…競馬ファンならずとも知る数々の名馬が、この安平町の地から誕生しました。特に、町の経済を牽引する社台グループの存在は絶大で、安平町を単なる馬産地ではなく、世界の競馬界における紛れもない中心地へと押し上げたのです。
チーズの灯を再び。伝統と革新が生んだ「夢民舎」の挑戦
安平町のアイデンティティを語る上で、サラブレッド産業と並んで欠かせないのが、酪農とチーズの物語です。かつて日本初の大規模チーズ工場が建設されたものの、その工場は移転し、一度はチーズの灯が消えかけてしまいました。
しかし、「この町にもう一度チーズの灯をともしたい」という熱い想いを持った地元の有志たちが立ち上がります。1990年に設立された「夢民舎(むーみんしゃ)」は、手作りチーズの製造を再開。その情熱と品質は多くの人々の心を掴み、今や全国にファンを持つブランドへと成長しました。

彼らの挑戦はそれだけにとどまりません。チーズ製造の過程で出る副産物「ホエー(乳清)」を豚の飼料として活用する、循環型農業を実践。こうして生まれたブランド豚「夢民豚(むーみんとん)」は、柔らかく甘みのある肉質で新たな人気商品となりました。失われた地域の伝統を、市民の手で復活させるだけでなく、「革新」と「持続可能性」という新たな価値を加える。夢民舎の取り組みは、地域の宝を未来に繋ぐ、力強いモデルケースとなっています。
未曾有の災害から生まれた「創造的復興」という希望
2018年9月、北海道胆振東部地震が安平町を襲いました。震源に近く、甚大な被害を受けた町は、未曾有の試練に直面します。しかし、安平町はここから驚くべき回復力と創造性を見せつけました。

町が掲げたのは、単なる「復旧」ではなく「創造的復興」。つまり、「震災前よりも魅力ある町づくり」を目指し、この危機を未来への変革の機会と捉えたのです。その象徴が、地震からわずか7ヶ月後にオープンした「道の駅あびら D51ステーション」です。かつて追分地区で活躍した蒸気機関車D51をシンボルに据え、早来地区の農産物や特産品が集まるこの場所は、二つの町の歴史を繋ぎ、町の一体感を醸成する新たな拠点となりました。今や年間数十万人が訪れる人気スポットとなり、安平町を「目的地」へと変貌させたのです。


さらに、未来への投資も惜しみません。2023年には最新鋭の設備を誇る9年制の義務教育学校「早来学園」を開校。また、官民連携で立ち上げた起業家支援プログラム「Fanfareあびら起業家カレッジ」では、ベーシックインカムを給付しながら新たなチャレンジャーを育成するなど、未来を担う「人」への投資を積極的に行っています。
安平町が教えてくれる、地域の未来の描き方

二つの異なる歴史という「幹」、世界に誇るサラブレッド産業や革新的な農業という力強い「枝葉」、そして未来を担う人への投資という豊かな「土壌」。安平町の物語は、地方が直面する課題に対し、いかにして立ち向かい、魅力的な未来を描くことができるかを示してくれています。
歴史遺産を尊重し、それを新たな価値創造に結びつける。危機を単なる災難で終わらせず、変革のバネにする。そして、何よりも未来を担う人々に投資する。安平町の挑戦は、日本の多くの地域にとって、勇気とヒントを与えてくれるはずです。ぜひ一度、このダイナミックな町の空気に触れ、その力強さを肌で感じてみてはいかがでしょうか。


安平町散策の途中に立ち寄った「灯火舎」はどのお菓子もとても美味しかった!カヌレが特に人気だとか…。
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Edit by 長嶺将也