都市の喧騒から離れ、自然の音に耳を澄ます…そんな「音のない贅沢」が、今、世界中の感度の高い人々の間で静かに広がっています。中でも、日本の風景音や生活音を記録したASMRコンテンツは、ヒーリングやマインドフルネスを求める層に高く評価され、再生数やフォロワーを伸ばしています。
特に、四季の移ろいがはっきりと感じられる日本の風土は、多様な自然音にあふれています。春の川辺に響くウグイスの声、夏の風鈴と蝉の大合唱、秋の落ち葉を踏みしめる音、冬の囲炉裏で薪がはぜる音など、全ての音の一つひとつが、懐かしさや安らぎを呼び起こします。
今回は、そんな「音」から知る日本の魅力、そして経済創発への可能性についてご紹介させていただければと思います。
日本の自然音ASMRの魅力

日本各地の自然が奏でる音は、四季折々の風景とともに、心を落ち着かせる効果があります。例えば、栃木県日光の自然音を6時間に渡り収録した動画では、川のせせらぎや鳥のさえずりが心地よいBGMとして利用されています。
他には秋田県・鵜養地区の森と水の音では、水と緑に囲まれた静かな山里という魅力を生かし、その自然音を収録、風の音や水の流れ、鳥のさえずりなどが心を癒してくれます。
YouTubeだけでなく、Spotifyなどの音楽配信サービスでも、日本の自然音を収録したプレイリストが人気を集めています。「地球を感じる自然音ASMR」などのプレイリストでは、森林や川の音が収録されており、作業中のBGMや就寝前のリラックスタイムに最適です。
音を求めて人は旅をする──知られざる土地への誘い

こうした日本の自然音ASMRの人気は、地域経済にも好影響を与えているのではないかと考えています。自然音を収録するために地方を訪れるクリエイターや観光客が増加し、地域の魅力を再発見するきっかけとなったり、自然音を活用した商品やサービスの開発が進み、地域の特産品や観光資源の価値向上にもつながっています。
そして「その生音を聞きに行きたい」という動機が旅のきっかけとなる可能性もあるでしょう。たとえば、無名の山間集落にある湧水のしずく音、干潟に広がる潮の音、深夜の神社の木々を揺らす風音…そんな誰も知らない“音”に出会うことが、贅沢な体験とされるようになってきました。SNSやASMR配信で聞いたその音を「実際に聞きたい」と願うことはもちろん、その場所をより知りたいと、人々が観光地ではない場所を訪れる動きの一つになるそんな動きも期待できるでしょう。
まさに知る人ぞ知る“音のない贅沢”の楽しみ方

このように、知名度やアクセスの良さではなく、「その場にしかない音」が地域を訪れる動機となることで、過疎地域や知られざる土地に新たな価値が生まれるきっかけも感じるASMR動画。音は目に見えない文化財がどう生かされていくのか。そして、音を求める旅は、観光の新しい潮流となり得るのか。
日本の田舎に満ちる“音の豊かさ”は、世界の人々の心を癒すだけでなく、地域に新しい息吹をもたらす可能性を秘めているのかもしれません。これからの時代、「音を届けること」は「人を動かすこと」と同義になっていくのかもしれない、そんな未来を感じました。