北海道白老町のポロト湖畔に広がる、広大な空間「ウポポイ」。2020年7月に開設されたこの場所は、単なる観光施設ではありません。日本の先住民族であるアイヌの文化を復興し、未来へとつなぐためのナショナルセンターです。愛称である「ウポポイ」は、アイヌ語で「(おおぜいで)歌うこと」を意味します。その名の通り、多様な人々が集い、アイヌ文化への理解を深めるための重要な役割を担っています。
ゲートをくぐると、スタッフの方々がアイヌ語の挨拶「イランカラㇷ゚テ(こんにちは)」で迎えてくれます。施設内の表記もアイヌ語が併記され、一歩足を踏み入れた瞬間から、その世界観にぐっと引き込まれました。
長い年月をかけたアイヌ民族の権利回復の歴史と、未来に向けて築くべき「共生社会」へのメッセージが込められた場所。この記事では、ウポポイが持つ多面的な機能とその歴史的背景を紐解いていきます。
多様な機能を持つ複合空間「ウポポイ」

ウポポイ(民族共生象徴空間)は、大きく分けて3つの主要な施設で構成されています。
- 国立アイヌ民族博物館: アイヌ民族の歴史と文化を主題とする、日本初の国立博物館です。
- 国立民族共生公園: アイヌ文化を五感で体験できるフィールドミュージアムです。
- 慰霊施設: 大学などが保管してきたアイヌの人々の遺骨を集約し、尊厳ある慰霊を行うための場所です。
これらが一体となり、アイヌ文化の調査研究、教育、そして情報発信の拠点として機能しています。訪れる人々は、アカデミックな学びから体験的なプログラムまで、多様なアプローチでアイヌの世界に触れることができます。ウポポイは、過去を保存するだけの場所ではなく、文化が生き、呼吸し、未来へと継承されていくためのダイナミックな空間なのです。

アイヌの世界を深く知るための施設
ウポポイの中心となるのが、「国立アイヌ民族博物館」と「国立民族共生公園」です。
国立アイヌ民族博物館は、アイヌ民族の視点からその歴史と文化を総合的に紹介しています。館内の基本展示室は、「ことば」「世界(精神文化)」「くらし」「歴史」「しごと(生業)」「交流」という6つのテーマで構成されています。独自の言語体系、自然界のあらゆるものに魂が宿ると考える世界観、厳しい自然環境で育まれた生活の知恵、そして和人や周辺民族との交流の歴史など、多角的な展示を通してアイヌ民族のアイデンティティを深く理解することができます。
一方、屋外に広がる国立民族共生公園は、まさに生きた博物館です。ポロト湖の豊かな自然に囲まれた園内では、伝統芸能の上演や食文化の体験、木彫りや刺繍などの手仕事に触れることができます。再現された「チセ」(伝統家屋)が並ぶエリアでは、当時の暮らしに思いを馳せることができ、ムックリ(口琴)の演奏体験や弓矢体験など、子どもから大人まで楽しめる参加型のプログラムが豊富に用意されています。ここでは、博物館で得た知識を、自らの体験を通して血の通った実感へと変えることができるのです。

設立の背景にあるアイヌ政策の変遷と「共生」への問い
これほど大規模な施設がなぜ設立されたのかを理解するには、日本のアイヌ政策の歴史を振り返る必要があります。明治政府は、近代化を進める中でアイヌ民族に対して同化政策を推し進め、独自の言語や文化、そして土地や資源を奪いました。長きにわたり、アイヌ民族は深刻な差別と貧困に苦しんできたのです。
この状況を変える大きな転機となったのが、1997年に制定された「アイヌ文化振興法」です。これにより、初めてアイヌ文化の振興が国の責務として明記されました。そして、さらに大きな前進となったのが、2019年に施行された「アイヌ施策推進法」です。この法律では、アイヌ民族が「先住民族」であることが初めて法的に位置づけられ、民族としての誇りが尊重される社会の実現が掲げられました。ウポポイの設立は、この新しい法律の理念を具現化する、いわば国の決意表明。共生社会を築いていくという強いメッセージが込められているのでしょう。

未来を創造するための学びの場へ
北海道の雄大な自然の中で、アイヌ文化の奥深さに触れ、これからの日本のあり方を考えてみる。ウポポイは、わたしたちにとって未来を考えるための、開かれた学びの場なのです。
一方で、この空間は美しさと楽しさの没入感がものすごい。つまり、「アイヌ民族が辿ってきた歴史」の悲しい・苦しい部分が前面に出ているわけではありません。
今回筆者がウポポイを訪れて感じたことは「ものすごく楽しい!」という気持ちと、これを楽しんでいいものか?という最後の違和感。”まずは知ってもらうために、楽しんでもらう”というコンセプトなのかなと感じました。
地域活性という意味でも、考えさせられる場所でした。
わたしたちがウポポイを訪れる意味は、単に知識や感動を得るだけにとどまりません。日本の歴史の多様性を認識し、異なる文化を持つ人々とどう向き合い、尊重し合える社会を築いていくのか。その問いにこそ価値があるのかもしれません。
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Edit by 高崎澄香
記事内写真参照:ウポポイ(民族共生象徴空間)公式サイトより