夏の夕暮れ、山々に囲まれた集落に「カナカナカナ…」という、ひぐらしの鳴き声が響き渡ります。茜色に染まる空の下、茅葺き屋根の合掌造り家屋が長い影を落とし、田んぼを渡る風が湿った土と深い緑の匂いを運んでくる。どこか懐かしく、そして少しだけ胸が締め付けられるような、日本の原風景がそこにはあります。
ここは岐阜県白川村、通称「白川郷」。世界遺産として名高いこの村ですが、僕にとっては、忘れられない物語の舞台でもあります。そう、多くのファンを熱狂させた『ひぐらしのなく頃に』の「雛見沢村」です。僕も学生時代にこのアニメと出会い、夢中になった一人。それ以来、毎年のように「聖地巡礼」と称してアルバイト先の先輩と白川郷へ足を運び、作中と同じ場所で写真を撮るのが恒例行事でした。
そんな思い出深い白川郷は、僕にとって今でも、夏の始まりの高揚感と終わりの哀愁を運んできてくれる特別な場所です。今回は、僕自身のそんな原体験も交えながら、「聖地・白川郷」への特別な夏の旅にご案内します。
生命の息吹に満ちる、夏の合掌集落
冬の雪景色が有名な白川郷ですが、夏の生命力あふれる姿は、また格別の美しさです。目に鮮やかな深緑の山々、青々と育つ稲、そして庄川の涼やかなせせらぎ。村全体を包み込む蝉時雨、特に夕暮れに響くひぐらしの声は、都会の喧騒を忘れさせ、訪れる人を郷愁の世界へと誘います。
この特別な空間への入り口が、駐車場と集落を結ぶ吊り橋「であい橋」。この橋を自分の足で渡ることで、僕たちは日常から切り離され、「世界遺産の村」という非日常へと足を踏み入れるのです。
白川郷の最大の魅力は、ここが単なる観光地ではなく、今なお人々が暮らしを営む「生きた遺産」であること。住民の方々が定めた「売らない」「貸さない」「壊さない」という三原則が、この奇跡的な景観を守り続けています。その暮らしの息吹は、内部を見学できる合掌造り家屋で感じ取ることができます。
- 和田家(わだけ): 国の重要文化財。白川郷最大規模を誇る合掌造りで、その威容は圧巻です。

- 神田家(かんだいえ): 囲炉裏で沸かした野草茶のおもてなしが嬉しい、完成度の高い建築。

- 長瀬家(ながせけ): 代々医者を務めたという歴史を持ち、江戸時代の医療道具なども見ることができます。

- 明善寺(みょうぜんじ): 本堂から鐘楼門まで、すべてが茅葺きという非常に珍しい合掌造りのお寺です。

これらの場所を巡ることで、僕たちは美しい風景の裏にある、住民の方々の絶え間ない努力と哲学に触れることができます。
物語が現実になる場所、「雛見沢村」へ
白川郷の歴史と文化に触れたなら、次はいよいよもう一つの顔、『ひぐらしのなく頃に』の舞台、「雛見沢村」の面影を追ってみましょう。ファンにとって、この村を歩くことは、物語の世界に没入する「聖地巡礼」という特別な体験です。
巡礼の始まりは、であい橋近くの「白川郷おみやげ処 かたりべ」や観光案内所で「聖地巡礼マップ」を手に入れることから。準備ができたら、いざ出発です。
【主な聖地スポット】
作中の名称 | 現実のスポット名 | 作中での役割・関連シーン |
雛見沢全景 | 荻町城跡展望台 | アニメOPなど、物語を象徴する風景 |
古手神社 | 白川八幡神社 | 物語の中心地「オヤシロさま」を祀る神社 |
園崎本家 | 園崎本家 | 御三家筆頭、園崎家の本家 |
梨花ちゃんハウス | 展望台へ向かう坂の途中にある倉庫 | 梨花と沙都子が暮らす、多くの日常と惨劇の舞台 |
レナの通学路 | であい橋 | 圭一とレナが待ち合わせをするなど、交流の場 |
巡礼者が必ず目指すのが、集落を一望する荻町城跡展望台。ここから見下ろす景色は、まさにアニメで何度も描かれた「雛見沢村」そのものです。そして、ファンのお約束として、展望台へと続く急坂を、作中の名台詞にちなんで「嘘だッ!坂」と呼びながら歩いて下るのも一興です。

村の中心に位置する白川八幡神社(古手神社)では、ファンが奉納した力作揃いの絵馬を見ることができます。全国から集まった人々の作品への愛が、この場所を特別な空間にしています。
伝統の味と、新たな息吹。白川郷グルメ探訪
旅の楽しみといえば、やはり「食」。白川郷には、厳しい自然の中で育まれた伝統の郷土料理と、若い世代の心をも掴む新しいグルメが共存しています。
【伝統の郷土料理】
- 朴葉味噌(ほおばみそ): 朴の葉の香ばしい香りが食欲をそそる、飛騨地方の代表的な味覚。

- 五平餅(ごへいもち): 甘辛いタレがたまらない、散策のお供にぴったりの軽食。

- 飛騨牛(ひだぎゅう): 串焼きやにぎり寿司で、気軽に最高級和牛を味わえます。

- どぶろく: 毎年秋の「どぶろく祭」は、この地の文化を象徴するお祭り。お土産には「白川郷 純米にごり酒」がおすすめです。

一方で、近年はSNSで話題になるような、新しいグルメも続々と誕生しています。プリン専門店「白川郷ぷりんの家」の美しい「水ぷりん」や、展望台カフェで販売されている合掌造りの形をした米粉チュロスなどは、写真映えも抜群。伝統的な景観の中に、こうした新しい魅力が生まれているのも、白川郷の面白いところです。伝統を守るだけでなく、それを現代的な感性で再解釈し、新たな価値を創造する。このダイナミズムこそが、今日の白川郷をさらに魅力的な場所にしているのです。
また来年、ひぐらしのなく頃に。

陽が傾き、ひぐらしの声が集落を包み込む頃、旅は終わりを迎えます。この場所がこれほどまでに人の心を捉えるのは、幾世代にもわたって受け継がれてきた「本物の歴史」と、多くのファンの心の中で生き続ける「架空の物語」とが、奇跡的に重なり合っているからに他なりません。
住民の方々の努力によって守られてきた有形の遺産と、物語によって与えられた無形の記憶。その両方が存在することで、白川郷は単なる観光地を超えた、唯一無二の「場所の力」を放っています。
夏は終わり、蝉の声はやがて聞こえなくなります。しかし、この地で過ごした時間の記憶は、きっと色褪せることはないでしょう。そしてまた次の夏が訪れ、ひぐらしが鳴き始める頃、この村は再び、私たちを静かに待っていてくれるはずです。
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Edit by 長嶺将也