「最近、熊のニュースをよく見かける…」そう感じている方は少なくないでしょう。しかし、そのニュースの背景に、人口減少と高齢化に直面する地域の、静かな悲鳴が隠れているとしたら。そして、その原因の一端が、他ならぬ私たち観光客の「無邪気な行動」にあるとしたら、どうでしょうか。旅先でどう振る舞うかが、地域の安全を、そして未来を左右する。今、観光のあり方が根本から問われています。
静かに追い詰められる地域社会。担い手不足という現実
熊の出没は、熊が人里に降りてくる主な理由は、①餌不足、②生息地の縮小、③気候変動、④分布の拡大です。特に秋の木の実が不作だと餌が不足し、人里の農作物やゴミを求めて降りてきます。また、人口減少による耕作放棄地の増加で野生動物の生息地が広がり、人間との距離が縮まることも原因の一つです。かつては地域住民の連携によって、山の管理や草刈り、追い払いといった熊対策が日常的に行われてきました。しかし、高齢化と担い手不足は深刻です。昔は集落のみんなでできたことが、もうできない。見回りの人手も足りない。以前よりも守り体制が脆弱になっている地域がほとんどです。
そんな地域に、もし「人慣れ」して人間を恐れない熊が現れたら?
一枚の写真が、悲劇を招く。観光が作る「人慣れグマ」
なぜ、熊は人里に現れ、人間を恐れなくなったのでしょうか。原因は、山の食料不足だけではありません。観光客の何気ない行動が、熊の性質を危険なものへと変えてしまうことがあります。
- 「撮りたい」という好奇心:熊を見つけた時、車を停めてカメラを向ける行為。実際に北海道の知床では、観光客がヒグマを見るために車を停めて渋滞してしまうという「クマ渋滞」といった問題が何年も前から起こってしまっています。これは熊に「人間は自分に危害を加えない存在」と学習させてしまいます。
- 「つい、うっかり」のゴミ:ドライブの途中で捨てたお菓子の袋、キャンプ場に残した食べ物の残り香。人間の食べ物の味を一度覚えた熊は、その味を求めて執拗に人里に近づくようになります。
- 「かわいい」という誤解:小熊を見かけた時、「かわいい」と近づいていませんか?近くには必ず母熊がいます。人間を危険と判断した母熊は、子を守るために攻撃的になります。そして、人間に慣れた母熊から生まれた子は、生まれながらに人間を恐れない「新世代の熊」となってしまうのです。
良かれと思って、あるいは無意識のうちに行っているこれらの行動が、地域住民が必死で保ってきた「熊と人間の境界線」を、いとも簡単に破壊してしまうのです。
マナーから「地域貢献」へ
この問題は、地域住民だけの努力では限界です。しかし、ここに新しい解決策の光があります。それは、私たち観光客が「お客様」意識から脱却し、「地域課題を解決するパートナー」へと意識を変えることです。人口が減っていく今だからこそ、外から訪れる私たちの力が、地域にとって大きな支えとなり得ます。そのための具体的なアクションが、地域を守る観光マナーです。
- 撮るより、守る:熊を見かけても、決して車を停めず、騒がず、静かにその場を立ち去る。その「何もしない」という選択が、熊と地域の安全を守る最も積極的な行動です。
- ゴミは「持ち込む」意識を捨てる:ゴミを「持ち帰る」のは当然です。一歩進んで、そもそもゴミが出にくい工夫(マイボトルやタッパーの活用)をすることが、地域への負荷を減らします。
- お金と共に「敬意」を落とす:地域の産物を買う、飲食店を利用する。それは素晴らしい地域貢献です。それに加えて、地域の自然や野生動物に対する「敬意」を心に留め、行動で示すこと。それが今、最も求められています。
- 情報を「正しく」得る:訪れる前に、その地域のビジターセンターやウェブサイトで、熊の出没情報や、地域が定めたルールを必ず確認しましょう。正しい知識が、あなたと地域を守ります。
めずらしい!自慢したい!といった気持ちが湧き出るのも分からなくありません。マナーが守れないというかっこ悪いを通り越して、災害の引き金を引いている当事者になってしまいます。担い手不足に悩む地域住民の負担を直接的に軽減し、安全な環境づくりに貢献する、極めて重要な「地域課題解決」の一環なのです。
地域の未来をつくる当事者
被害を減らすには、駆除や狩猟が直接的な対策になります。実はこれまでツキノワグマは保護を前提にした対応がとられてきたのですが、2023年の大量出没を受けて、2024年2月にツキノワグマは指定管理鳥獣に含まれることになりました。法律は変わりましたが、駆除の動きだけでなく、森林保全が必要です。
これからの時代の観光は、ただ景色を消費するだけのものではありません。その土地の文化や自然を尊重し、抱える課題に寄り添い、その未来に貢献すること。そんな「関係人口」としての一歩を踏み出すことが、旅を何倍も豊かにしてくれるはずです。
私たちが旅先での振る舞いを少し変えること。それが、人口減少に立ち向かう地域への最もパワフルなエールとなり、人と熊、そして人と人が豊かに共存できる社会を築くための、確かな礎となるでしょう!
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Edit by 高崎澄香