絶滅の危機に瀕する野生の梨、「イワテヤマナシ」。その秘められた価値を見出し、研究と保全、そして地域振興へと繋げるために長年にわたり情熱を注いできたのが、神戸大学大学院農学研究科で教鞭をとられていた片山寛則氏です。片山氏の取り組みは学術研究の枠を超え、岩手県盛岡市乙部にその実践の場を持つ「片山農園やまなし&アップルファーム」へと、今、新たなステージを迎えています。

イワテヤマナシとの出会いと研究の深化
片山氏とイワテヤマナシとの関わりは20年以上に及びます。岩手県など東北地方の山野に自生するこの野生梨は、かつて地域の人々の暮らしを支えたものの、開発や栽培種の普及によりその数を大きく減らし、環境省のレッドリストにも掲載される希少な存在です。片山氏は、この貴重な遺伝資源の探索・収集から研究をスタートさせました。DNA解析による遺伝的な多様性の評価、栽培梨にはない優れた香気成分や機能性成分の特定など、イワテヤマナシの多面的な価値を科学的に明らかにしてきました。その研究は、単に希少種を守るだけでなく、新たな食品開発や地域資源としての活用可能性を探るものです。
神戸大学での研究と、未来への決断
神戸大学では、収集した系統を保存するジーンバンクを設立し、遺伝資源の未来への継承にも力を注いできました。しかし、片山氏が長年丹精込めて育ててきたイワテヤマナシをはじめとする貴重な植物遺伝資源は、大学の研究体制では教授の退任時に研究室のプロジェクト変更などによって失われてしまう可能性がありました。これらの資源を守り抜き、未来へと確実に継承するため、片山氏は大きな決断をします。2024年、長年勤めた神戸大学を早期退職し、自身が育てた種や苗を岩手県の「片山農園やまなし&アップルファーム」へ移し、研究と保全活動を継続する道を選んだのです。

保全と普及への多角的な取り組みの継続
この決断の背景には、イワテヤマナシへの深い愛情と、それを地域と共に活かしていこうという強い意志があります。片山氏は、2012年に「イワテヤマナシ研究会」を発足させ、研究者、生産者、食品加工業者、行政、そして一般市民が連携し、理解促進、利用拡大、保全活動を推進するプラットフォームを築いてきました。東日本大震災後は、復興支援として苗木を東北地方の学校に植樹するなど、地域への想いを形にしてきました。さらに、岩手県奥州市などで企業や地域住民と連携し、イワテヤマナシを使ったジャムやシロップなどの商品開発、6次産業化による地域活性化にも貢献してきました。これらの活動は、新たな拠点でさらに深められていくことでしょう。
盛岡での新たな拠点 ― 「いわてやまなし研究所」と「片山農園」

岩手の地でこれらの活動をより深く根付かせるため、片山氏の妻であり研究のパートナーでもある植松千代美氏が中心となり、「いわてやまなし研究所」が盛岡市で活動しています。そして、その実践と研究継続の場として「片山農園やまなし&アップルファーム」が岩手県盛岡市乙部にあります。この農園では、その名の通り「やまなし」、すなわちイワテヤマナシと、りんごの栽培が行われています。盛岡市内でんちゅう活用もりおか体験プログラムのウェブサイトでは、同農園がりんごの摘果体験の場として紹介されており、地域住民や観光客が農業に触れる機会も提供しているようです。
この農園は、片山氏が神戸大学から受け継いだ貴重な遺伝資源を育み、イワテヤマナシの研究、保全、そして地域資源としての活用という一連の取り組みが、栽培、商品開発、そして人々との交流を通じて具体的に展開される拠点となります。学術的な知見と長年の情熱が、地域に根ざした農園運営を通じて、新たな価値創造と次世代への継承へと繋がっていくことでしょう。イワテヤマナシの芳醇な香りと共に、その未来への希望がここから力強く育まれていきます。
やまなしジャムの販売開始
片山氏と研究パートナーの植松氏が開発と試食を重ねた「やまなしジャム」は、これまで岩手県内のマルシェやイベントでの出展に限られていました。しかし、2025年4月より岩手県九戸村の道の駅オドデ館で、いつでもお買い求めできるようになりました。


しかし、九戸村は岩手県民でもなかなか足を運びずらい場所…。ましてや東北、東北地域外の方からすると…日本に数少ない野生種である「イワテヤマナシ」の種の保存や保全を進めていくには、食用として知られる必要があります。その第一歩目が「やまなしジャム」です。
私たちの活動『Community Branding Japan』ひいては「CBJ Market!」を通して、歴史を紡いでいくための食材も届けることができるよう、引き続き頑張っていきます。
記事協力
- 盛岡市グリーンツーリズム推進協議会様:https://morioka-gt.com/
- いわてやまなし研究所様:https://www.instagram.com/iwateyamanashi/
- トラベル・リンク様:https://travel-link.jp/
Community Branding Japanについて
CBJでは、全国の地域経済創発活動に力を入れて進めています。PRやブランディングのご支援にはじまり、実際にはたらくことを見据えた地域体験や研修プログラムづくりだけでなく、プロジェクトメンバー自身がLinkedInをはじめとするオウンドメディアでの発信することによって集客も担っていきます。活動にご興味を持ってくださる個人、企業、地方自治体の皆様、お気軽にお問い合わせください!
Edit by 長嶺将也